「…意外とざっくりと
割れてたんだな」

リビングの床に
這いつくばって

濡れたペーパータオルで
細かい欠片を拾っていく。


ほぼ2つに折れただけ、と
表現するのが
正しいんだろうな。


透明じゃなかったら
くっつけても

ほとんど
違和感もないかと思う。


「…まさか
あの美意識の高い先生が

接着剤でくっつけて
飾り続けるとも
思えないけれど」


ちいさな破片は
キッチンのゴミ箱に

キッチンペーパーで
しっかりくるんで捨てて

クリスタルの
ふたつの本体は

テーブルの上に
並べて置こうとして

そのとき
初めて気がついたッ。


「…どうしようッ」

高そうなテーブルの
金色の縁取りが

さりげにへこんで

金色も一部
剥げてしまっていてッッ!!!


アタマが
真っ白になる…。


落ち着けッ。

落ち着け、私ッ。


「先生が気づかないうちに

何とか修復出来れば
いいんだからッ」


金色のポスカラと
接着剤があれば…。


「確か、このマンションの
最寄りの駅ビルの中に

おおきな文具店が
入っていたよね…」


私は時計を見て
時間を確かめた。


…先生の病院まで往復して
レントゲン撮って
治療してたら

ここに帰ってくるまでに
1時間は掛かるだろう。


「…セイは

大正ロマンがあの箱を狙って
合鍵を使って
侵入するかも、って

警戒してたけど」


よく考えてみたら
この箱がここにあるコト

大正ロマンは
知らないハズなんだよね。


しかも
合鍵を持っているって
知られてしまっているのに

留守宅を狙って
侵入するなんて


疑いが
一番に掛かるようなマネを

あの大正ロマンがするとは
とてもじゃないけど
思えなかった。


「…あのヒトが
先生のコトを好きだってコト

セイも先生も
気づいてないから」