「あのね…!!!!!」

「タカヒロさんはッ!

タカヒロさんは
どこにいらっしゃるの
かしらッッッ!!!!!!!」


「……」
「……」

チュウされた当の本人が

怒るタイミングを
逸するくらい

大正ロマンは

耳まで赤くして
激昂しているッ。


「…このオナゴ。

いったい
どんな想像をしたのやらッ」


おじいちゃんってば
反省の色もなく

真面目な顔で
私にそっと耳打ちして
きたりしてッ。


「離れてくださいッ!!!」


…まったくもうッ!


ただでさえ

この状況下

これ以上
騒ぎのネタなど
増やしたくはなかったのにッ!


「あらあ。何の騒ぎ?」

髪を乾かしながら

テツオさんが全裸のまま
洗面所から
顔を出してくるモノだからッ。


「何てッ!!!

何て破廉恥なッ!!!」


見損ないましたわ
タカヒロさんッ、と

大正ロマンは
捨て台詞を残して

ドアを激しく閉め

カツカツカツカツカツ、と
編み上げブーツの音を
高らかに鳴り響かせながら

去っていった…。


「…どったの?」

今のヒト
何、怒ってたの?、ってッ。


テツオさんッ

少しは
自分の奔放さに
自覚を持ってくださいなッ。


だいたい
私とおじいちゃんが
出掛けた後


「ドアストッパーを
掛けるように

あれ程
何度もお願いしたのにッ」


ドアストッパーどころか
騒ぎにだって
なかなか気づかず

のん気に
ドライヤーなんか
掛けていてッ。


あまりにも
緊迫感がなさすぎますッ。


「…こんなんじゃ
ますます出掛けられないよ」


緊迫感のないご老人が
ひとりッ。

何もなかったかのように

何やら自分のケータイの
動画を再生している
けれどッ。


あれ?