スプリング♂027


「ションベンが
したくなったッ」

「……」


「ションベンが
したくなったッッ」

「……」


「ションベ…」

「しつこいですッッ!!!」


私はいつまでも
同じセリフを繰り返す
おじいちゃんに

牙をむいて威嚇するッ。


「何じゃ
聴こえておったのかッ」


「…トイレなら

使いのヒトが来たら
いくらでも行けますからッ」


「…年寄りに
排尿の失敗経験と言う
恐ろしい辱めを与えて

それで満足か…ッ」

よよよ、と

…今度は
泣き落としですかッ。


先生の最後の電話から
かれこれ40分は経っている。


都内から
ここに向かっているのなら

そろそろ
着いてもいい頃なのに。


…まさか
予定していた”使いの者”が
”使えない者”で

当てにしていたのに断られ

まだ人選をしている最中
だったりしてッ。


「膀胱が破裂しそうじゃッ」


「…先生を信じて
待ってください」

あと少しの辛抱です、って
そう自分にも言い聞かせる。


だけど

「自分の意思で
調節できるようであれば

尿漏れなんぞで
年寄りは苦労せんッ」


「……」


「…死亡診断書に

死因を
排尿の我慢による膀胱の破裂
と書かれて

ワシは
葬儀屋に笑われるのか」


おじいちゃんてば
聞き分けのないッ。


「…葬儀屋さんは
そんなコトで笑ったりは
しないと思いますッ」


私に軽くいなされて


「はああああああッ」

おじいちゃんが
イヤミったらしく
長〜い溜息をついてみせた。