「…おじいちゃんの着替えを
届けにきてくれた
運転手さんじゃないのかな」
やっと口から出たコトバが
こんなのなんて
我ながら情けないッ。
立ち上がろうとする私の
腕を掴んで
「そんなの
いくらでも
待たせていればいい」
セイが強い力で
私を自分の胸の中に
引き寄せて
「うッ!」
額に汗を滲ませたセイの
情熱的な唇が
私の次のコトバを塞いだ。
…セイッ!
唇を離そうとして触れた
セイの首筋が
じっとりと汗ばんでいて。
「……」
…相当
痛むんじゃないのかな。
なのに
セイは
絶対に離さないぞ、と
言わんばかりに
その腕の力を
抜こうとはしない。
…そんなセイに
心配どころか
胸が高鳴ってしまっている私は
アタマが
おかしいのだろうか。
「……」
手負いの美しい獣を
目の前にして
私の気持ちは
昂ぶる一方で。
熱を帯びたその長い指に
私の髪を
何度も何度も櫛毛される。
もうこれが
現実なのか
夢なのか
わからなくなっていく。
いつもの姉弟ゲンカの後の
仲直りの仕方じゃなく
お互いの気持ちを
確かめ合うみたいに
セイが私を求めてくる。
だけど。