「…先生と結婚を機に
占いの世界から引退って」
無茶な、とも思った。
先生との見合いをエサに
たくさんの
オンナノコの親から
お金を貰っていたし。
…でも。
セイのコトだ。
その辺は
年上の占い師に片想いしてきた
青年医師、とか
適当なロマンスを
でっちあげるつもり
だったんだろう。
大正ロマンも
セイの提案を聴かされたとき
イベントに先駆けて
HPで発表しようと
HPのパスワードまで
セイに教えて
協力していたのに。
「…芝居でも
愛するフリなんてできないよ」
先生が助け船を求めるように
私を見るッ。
「…トーコには
キスしたくせに…さ!」
「それは…!」
「何ッ、タカヒロってば
トーコちゃんにキスしたのッ」
テツオさんの嬉々とした声が
部屋中に響いてッ
「それは、そのッ」
先生が
思いっきり動揺していたッ。
「…トーコを
俺の吹いたリコーダーだ
とか言うんなら
俺があの占いオバサンに
キスしてやれば
先生は悦んで
あのオバサンの唇に
むしゃぶりつくのかな?」
意地悪なセイのモノ言いに
「…それはない、よ」
先生はキッパリと言い切った。
「彼女は僕の父親の愛人だ」
「…それは
単なるウワサじゃないの?」
「彼女自身が
僕に言ったんだよ」
事実上の
アナタの母親みたいな
モノだから
何だって
甘えてくれていいのよ、って
「気がついたら
僕の部屋の隣りに住み
何かと僕の生活に
干渉してきて」
父の愛人だから
家族のようなモノだから、と
思えばこそ
許してきたのに。
「なのに。今更
結婚相手として見ろ、なんて
それこそ
世間さまの笑い者だ」
先生が自嘲する。
「…そもそもさあ。
先生の親父さんと
あの占いオバサンが
そんな関係だったなんて
それこそ
彼女の狂言だったんじゃ
ないの?」
「え?」
「じゃないとさ。
あのオバサンが
先生に嫌がられたくらいで
ここまで怒り狂うなんて
とてもじゃないけど
考えられない」
「……」
先生に露骨に拒絶され
もう何もかも
どうでもよくなった、って
大正ロマンは
目の前にあった
グラスを叩き割って
セイの喉元に突きつけると
自分の占いのHPを
その手で削除しろ、と
先生に命令したのだという。