スプリング♂040
「ちょ、ちょっと
落ち着いてくださいッッ」
と言っている私の方が
完璧に舞い上がっているッ。
着ている和服のせいか
見かけより
大正ロマンは重量級で
ベランダから
落ちると言うよりは
圧迫死しそうだ。
お酒の匂いやら
線香臭い伽羅の香りやらが
入り混じって
呼吸をするのも苦しくて。
相手がオトコなら
躊躇わずに
相手のスネに
蹴りを入れてやるトコロだ。
だけど
酔っているらしい
大正ロマンの足を取ったら
それこそ
バランスを崩して
9階から転落しかねない。
「ああ、いい気持ち。
何もない、ってコトが
こんなにも楽だったなんて」
…さっきから
大正ロマンは
同じようなセリフばっかり
繰り返しているけれど。
それはまるで
自分自身を
そう言い含めて
いるかのようで。
本音ではない。
何故だか
そう思った。
何も手放したくは
ないのに、って
気持ちが
背中から伝わってくる。
愛するヒトと
結ばれるコトはなくても
いつも
一番近くに居れるだけで
よかった。
…その想いは
どこか
昔のセイの私への想いに
似ていて。
「あの…ッ。
まだ何も始まっても
いないのに
諦めちゃうん…ですか?」
気がつくと
私は
余計なひと言を
口にしていた。
「…何も始まってない
ですって?」