世の中を知らない
おバカさんは
これだから、って。
大正ロマンが高笑いする。
私の背中から
重みが一瞬、消えて。
私はそのスキをついて
大正ロマンのカラダから
逃げ出して
キッチンへと続くドアの
ノブに手を掛けた!
「…私は頑張ってきたわ。
これ以上
まだ頑張れ、と
アナタは言うの?」
冷静な大正ロマンの声に
思わず私は振り返る。
「いろんなヒトを
騙して、陥れて、と
言うヒトもいるけれど
それだって結果論」
占い師なんて
所詮はナビゲーター。
道先案内人。
「未来を選びとって
進んでいくのは
そのヒト自身の意思だわ」
…なんて。
またこのヒトは
責任転嫁しながら
胸元からタバコ入れを
取り出すと
「ああ。切れちゃってる」
アナタ、持ってない?、って
未成年の私に
指を2本立てて
タバコを要求してきた。
「…タバコなんて
持ってません」
この場から逃げ出す
チャンスだったのに。
どうしても
足が先に進まないのは
きっと
このヒトの
あまりにも”らしく”ない
その弱々しい声のトーンの
せいだ。
このヒトを
ひとりにしたら
それこそ
ここから飛び降りて
しまうんじゃないか、って
想像が
私の足を
その場に引き止める。