冬の風に
私の耳も凍り掛けて。
その静寂に
身を切られそうになる。
「…恐くは、ないか?」
私の不安を察したのか
それとも
自分が不安になったのか。
私に話し掛けてきたセイに
「恐くなんてないよッ」
私は強がって見せた。
「…そうだよな。
でないと、この高さから
飛び降りてみようなんて
普通は思わないモノな」
セイの苦笑いが
私を掴んでる腕から
微かに伝わってくる。
「3階の高さの樹から
飛び降りたときだって
平気だったもんねッ」
「着地するスペースが広くて
下が柔らかい芝生だったから
だろう?」
どんな有能な経験豊かな
スタントマンだって
足場が20センチもない場所に
飛び降りたりは
できないぞ、って
セイがまた
笑ってるようだったけど。
…カラダを動かして
セイの肩に
負担が掛ったら、と思うと
私はセイの顔を
覗き見れずにいて。
「セイってさ。
いっつも最悪な想定ばっかり
考えてるけどッ
こ〜ゆ〜ときは
助かるイメージを
描かなくちゃ!」
新体操の演技の前だって
失敗を恐れた瞬間
「手足がすくんで
出来るモノも
出来なくなるって
ウチの新体操のコーチも
いつも言ってるしッ」
「…あの結婚3回の
人生がチャレンジャーな
コーチか…」
「……」
…そりゃあねッ。
さっきから
強い風がカラダを揺らす度に
心臓がドキドキして。
正直言って
こうして時間が経てば経つ程
不安が
おおきくなってる。
けれど。
カラダが揺れる度
セイの手に力が入って。
セイの存在を、気持ちを
傍に感じられるから。
「大丈夫ッ!
私ッ、運がいいもんねッ」
私は頑張れる。