「信じているみんなに
タネあかしするコトが

本当にみんなの為になると
思ってるの?」


…セイは私に
語り掛けているんじゃない?


「…もう終わったのよ」

大正ロマンの声がして。

「……」

私は思わず息を飲んだ。


セイのカラダの横を

みつあみになった腰紐が
スルスルと上から降りてくる。


「セイくんッ!
管理人室に連絡したから
もう少しだからね!」

テツオさんの声もして。


「ホント。ギブアップなんて
簡単にするモノじゃないよな」

人生、最後の最後まで
わからない、って

セイがクスリと笑った。


終わった、と
思うコトがあっても

落ち着いて回りを見渡して
誰かを信じるコトができれば

まだまだこうして道は出来る。


セイが足で腰紐の束を
私のカラダに寄せてきて。


「トーコ!、よかったな。

お前のご自慢の
運動神経の見せ場だぞ」


セイのその声には
希望がいっぱい満ちている。


「一回で決めるからッ」

セイから受け取った
腰紐の束を
太股と腰にしっかりと回して

この1回に全てを掛ける!


「せ〜のッ!」

背筋を利かせ

私はカラダをおおきく揺らし
壁を蹴り上げるッ。

セイが期待して
賭けてくれたんだッ!

私に出来ないワケがないッ
!!!!!!!!!


タンタンタンッ、と
弾みをつけて

「とりゃああああああ」

セイのカラダを足場に

そのまま勢いよく
ベランダまで
掛け登っていった…!!!


「トーコちゃんッ、凄いッ」


命綱なんて
要らなかったかも、なんて

テツオさんが感心して。


「次はセイの番ッ!」

私は自分のカラダから
命綱を外して

セイの傍に速攻
下ろしたのに…!

「…悪い。
せっかくだけど、さ」

もう握力が残ってない、って
セイが静かに笑ってて。


「何言ってるのよッ!!!」


今、さっきまで
明るい声で

頼もしく
私の背中を押してくれて
いたじゃない。


「あと
ひと踏ん張りなんだからッ」

それっくらいの力ッ
頑張って振り絞りなさい、って

何度も、何度も
私が怒鳴っているのに。

「……」

「何で返事を
しないのよおおおッ!!!!」


私は腕を伸ばして
セイの手錠を
必死で持ち上げようとする。


「トーコちゃんッ!

無理やり外したりしたら
セイくんが落ちちゃうよッ」

その瞬間。

セイの手錠が引っ掛かっていた
ベランダの突起部分が

私の目の前で

重みに耐えきれず
ゆっくりと形を変えていって。


「じゃあ、どうすれば
いいのよおおッ!!!」

私はセイの腕を両手で掴んだ。