「やだ、やだ、やだッ」
どんどん、どんどん
セイの腕が
氷のように
冷たくなっていくのがわかる。
私は祈るように
その場に泣き崩れて。
「トーコさんッ!
諦めたらそこで終わりよ!」
大正ロマンの一喝に
ハッとする。
「…ギブアップなんて
簡単にするモノじゃない、って
この坊やが
さっきそう口にしてたばかり
じゃないの」
大正ロマンは
腰紐の束を
セイの手錠に無理やり通すと
私に初めて笑い掛けてきて。
「前に言ったでしょ。
アナタはヒトに利用される為に
生まれてきたんだ、って」
今、この場面で役に立たないで
どうするのよ、って
大正ロマンが
腰紐のもう片方を私のカラダに
結びつけて。
「レスキューが来るまで
死ぬ気で彼を支えてなさい」
って。
あの気の利かない
機転がきかない管理人の
どこに期待しろと
ゆ〜のかッ。
せいぜい消防署か
セキュリティーセンターに
連絡して
あたふたと待ってるだけが
オチじゃないのか。
「お〜い。大丈夫かあ」
こんなときに
そんな励ましッ。
「大丈夫じゃありませんッ」
お気楽な声に
私は思わずテツオさんを
怒鳴り返すと。
「今の私じゃないわよッ」
テツオさんの訴えに
声がする頭上を仰ぎ見る。