スプリング♂031
私は急いで
玄関に書類を確認しに走るッ。
「うそ…」
玄関にあったハズの書類は
跡形もなく消えていてッ。
書類を乗せた手押し車の
車輪の跡形までもが
そんなモノは
最初からなかったかのように
でっかい
カーペットの洗浄機が
キレイに毛あしを整えていた。
「…ここにあった
手押し車は…?」
「ああ、何か、奥さまが
移動されたみたいですけど」
「……」
…答えは
想像できていたけれどッ。
「…奥さまって」
「あの着物の方。
奥さま、ですよね?
いつも清掃のとき
立ち会ってくださってますし」
「……」
どうやら
先生がいないトコロで
大正ロマンは
先生の”奥さま然”として
この場を仕切っていたらしく。
…好きなヒトの奥さまに
間違われる喜び。
大正ロマンにとって
この掃除の立ち会いは
堪らないひととき
だったんだろうけれど。
だからといって
間違われてるのをいいコトに
この部屋のモノを
勝手に持ち出すのは
戴けませんッ。
「書類、返して貰わなくちゃ」
リビングの様子を
ちらり、伺うと
大正ロマンが
こちらに背中を向けている。
…大正ロマン本人が
持ち出したのなら
メガネっ子がいる部屋に
堂々と持ち帰るワケには
いかないよね。
だとすると
このマンションのフロアの
どこかに隠しているハズで。
私は
そ〜っと靴を履いて
玄関を出ようとした、のにッ
「どこにお出掛けですか?」
なんてッ!!!
おおきな声で
私の背中に声を掛けてくる
アナタはッ!!!
「セイッ」