大正ロマンを黙らせて
満足したのか
「何か腹が減ってきたな」
セイは
カーペットクリーニングの
清掃機を邪魔にしながら
部屋の奥へと戻って行って。
「あんまりロクなモン
入ってね〜な〜」
セイが冷蔵庫を
覗き込んでいるけれどッ。
「ちょっと、セイッ」
「何だよ」
「ホントにあの書類
渡したままでいいのッ!?」
大正ロマンを
完全に敵に回して
不安いっぱいな私に
セイはにっこり、と
余裕の笑顔を見せつけて。
「あのオンナも
何だかんだと運がいいよな」
「え」
「だってそうだろ?」
もし、あのとき
「俺達があのオンナの部屋に
踏み込むのが
少しでも遅かったら
お前が
大怪我をしていたワケで」
今頃、あのオンナは
病院送りだっただろう、って
セイが
私の顔を見つめてくる。
セイの真っ直ぐな
深い色の瞳。
「……」
助けてくれて
ありがとう、って
今なら素直に言える。
そう思ったのに。
「本当に常識のない子ね」
冷蔵庫からチーズを
取り出そうとしていたセイに
ひと言
言わずにいられなかったのは
大正ロマン、そのヒトでッ。
「そのチーズ。
スーパーで買えるような
品物じゃないのよ」
なんてッ。
お願いですから
これ以上
ウチのセイに
ケンカを売るのは
ヤメテクダサイッ。