キッチンから
そんなセイを連れ出して
おとなしくさせたいのは
ヤマヤマだけど
キッチンの入口に
大正ロマンが立っていてッ。
水に、油に、洗剤にッ。
鍋に、瓶に、まな板にッ。
彼女のまわりには
潜在的武器がいっぱいで。
…近寄っただけで
また何かされそうで
恐ろしいッ。
なのにッ。
セイは
冷蔵庫からまた1本
スーパーなんかでは
見たコトもない
オシャレなボトルの
ミネラルウォーターを
出してきて
大正ロマンの
後姿が恐いですッ。
…先生の部屋にあるモノは
食べられるモノも
食べないモノも
みんな高価なモノだってコトは
庶民の私でさえ
何となくわかりますッ。
チーズの
いい匂いがしてきて
チンッ!
庶民の家庭と同じ
マヌケな
トースターの音がすると
中から取り出したチーズに
蜂蜜を掛け
真っ赤な鍋つかみで
熱くなった高級皿を掴んで
大正ロマンを
邪魔にしながら
リビングのソファーにいた
私の方に歩いてきてます
けれどッ!!!
まさかッ
その熱くなったお皿を
このテーブルの上に
そのまま置くんじゃ
ないでしょうねッ!!!!
先生のお母さまの
形見のテーブル!
これ以上
セイの手で
傷つけさせるワケには
いかないよッ!!!!!
セイが
置こうとしたお皿の下に
何か滑り込ませようとして
その手に掴んでいたのは
「ああッ」
これは
私の毛糸のパンツうッッ!!!
一瞬、躊躇った私より
ひと呼吸早く
テーブルの上に
鍋敷きとして投げ置かれッ。
「えッ」
「そんなモノを直接
テーブルに
置こうとするなんて
非常識にも程があるわ!」