「…救急箱くらい
自分の家にもあるだろ〜」

セイが
不服そうに私に意見する。


「右手の甲だもん。

絆創膏ひとつ貼るのだって
大変だよ」


「あのメガネ掛けたオンナが
まだ部屋に残ってるだろう?」


「もう時間も遅いから
仕事を終えて
帰っちゃったかも
しれないし!」


「まだ居残っているから

書類を部屋に戻せずに
先生の車なんかに
運び込んだんだろう?」


…確かにッ。


「弟子っぽかったから

案外
住み込みとかじゃないの?」


ハウスクリーニングの
オジサン達が
拾い集めたダイヤを
数えながら

セイはぶっきらぼうに
言い放つ。


「…なら、いいけど」

私は
金色の縁取りが派手な
白い飾り箱を

飾り棚に戻そうとした。


「あ、20個
全部あるみたいだから

掃除機かけちゃって」


セイは
ハウスクリーニングの
オジサン達に
そう声を掛けると

ゆっくりと
私の方へと近づいてくる。


「…その箱を
救急箱だ、って
持っていったら

たぶん
お前、生きては帰れないと
思うけど」


私が飾り棚に戻した箱を

セイの長い腕が
軽々と掴まえた。


「この部屋のコト
どこまで知ってるのッ。

まさかあの方とは
本当に深い関係なのッ!?

悔しいいいッッ!!!!!

ってね」


セイが
オカマ声で
ふざけて見せたけど


「あのオンナ。

自分が一番
何でも知っているつもりで
いるからな」


…その目は
笑ってはいない。


「…セイ。
もしかして気づいてた?」


「何を?」

…何を、って。