スプリング♂034


電話をしている
セイのその厳しい横顔。


私の視線に
気づいているだろうに

ママとの話題に
大正ロマンの名前が
出てきて以後

電話に
熱中しているフリをして

セイは私と
目を合わせようとは
しなかった。


「うん、それで?
どっちが、なの?」

…さっきまでは

セイの受け答えで

何となく
話の内容が
推測できていたのに


「ひとつ前の話に
戻ってくれる?」

セイが
おしゃべり脱線ママを
上手く誘導して

絶妙に
情報を引き出している
らしかった。


大正ロマンの話、って。

そんなに
私に知られたら困るような
内容なんだろうか。


「……」

そう考えたら

何だか、ますます
その内容が
気になってきてッ。


私は自分の学生カバンを
引き寄せると

中から
メモ帳を取り出した。


【ママと何を話してるの?】

走り書きして

セイの目の前に
つきつけるッ。


「……」

セイの目の動きが
文面と私の顔を往復すると

長い人差指で

ペンを渡せ、と
セイが無言で要求してきて。


教えてくれるんだッ!!!


私は嬉々として
ペンを差し出した。


のにッ!!!


「セイッ!!!

私のペンのデコシール
剥がさないで
くれるかなッ!?」

可愛くデコっていたペンを

セイは笑いながら
容赦なく
ハダカに剥いていってッ。


「いや
何でもないよ。母さん。

続けて」


なんてッ


ペンを取り返そうとする私を

セイの長い足が
げいん、げいん、と

余裕然、と押し返すッ。