治療して貰って
感謝するのは
患者のセイのハズが
いつの間にか
「ありがとう」を言う
立場が逆転していて。
セイ様の患部を
固定させるという
光栄な役割に
先生は興奮を
隠せないみたいだった。
「ぼ〜っと見てないで
帰る支度をしろよ」
セイのキツイ視線を
ふいに浴びせられ
「えッ、あッ、私ッ!?」
私は初めて我に返るッ。
「…俺が予想してた以上に
母さんのアタマの中は
今日の父さんの同僚の
お見合いランチのコトで
いっぱいみたいだから」
あの調子じゃ
今日学校休んだコトは
深くは
追求されないだろう、って
セイは
私をひとりで帰す気
満々で。
「タクシー
自分で呼べないのなら…」
セイはベッドサイドにある
電話を手にして
不満の意を
顔に浮かべていた私を
さらに煽ってきたりしてッ。
「……」
…なんか
露骨に邪魔にされててッ
超、マジ、ムカつくッ。
「…タクシーくらい
自分で掴まえられるからッ」
お気づかいなく、って
セイにアカンベして
背中を向けると
私は荷物をまとめて
玄関に向かうと
「このマンションの前
薄暗くて危ないから!」
ちゃんと
タクシーを確保してから
部屋を出ろ!、と
セイが私の後を
追い掛けてきた。
「だったらッ
セイもいっしょに
帰ればいいじゃないッ!」
「……」
「心配なんでしょッ!?」
セイの思いつきに
振り回されて
つい、苛立ってしまう
自分がいる。
だけど。
セイはそんな私に
「…まだ解決しておきたい
オトナの事情があるから」
困った顔をして。
寝室から出てきた先生の方を
ちらり、見た。
「……」
”解決したいオトナの事情”。