誘惑のルージュ編


クボ先輩と
初めてのねずみ〜らんど。

気分はウキウキのハズだった。

だけど。

「ホントにごめん!」
「申し訳ない!」
「悪かったね、ホント」

待ち合わせた駅から
ずっとこの調子で

私の顔色を気にしている
クボ先輩に

「…ねずみ〜らんどは
大勢の方が楽しいですし」

私はココロにもないコトを
口にしている。

「そうよ。
どうしてニイニが
謝る必要があるワケ?」

クボ先輩を“ニイニ”と呼ぶ
小学5年生。

私とは
目さえ合わそうとしなくって。


私にクボ先輩と自分の
ツーショット写真を
何枚も撮らせては

ずっとこの調子で。

「え…っと」

ルリちゃん、だっけ。

「言っておきますけど!
私がふたりのデートに
ついてきたんじゃなくて

アナタが
私とニイニのデートに
くっついて
きたんですからね!」

…小生意気な小学生は
クボ先輩の腕を独占し

私を置いて
ふたりでどんどん先を
進んでいくッ。

「…小学5年生って
言ってたけど」

背が高くって
手足が長くて
中学生かそれ以上に見える。
しかし、ほっそい。

足なんて風が吹いたら
折れちゃいそうだ。


長く伸ばした茶色の髪は
オンナノコらしく
くるんと先が巻かれていて

白いレースのリボンが
私って可愛いでしょ、って
言わんばかりだ。


デニムのミニスカートから
覗くフリル。

ピンクと赤のスパンコールで
彩られた
キュートなジャケットといい

ティーン向け雑誌から
飛び出してきた
モデルみたいで。

…可愛すぎだった。

先輩の妹だ、って
わかってるから

平静を保ってられるけど。


妹だなんて知らずに
街中でこんなシーンを
目撃していたら

きっと一生
立ち直れなかっただろう。


「トーコちゃん!

迷子になっちゃうから
離れないで!」


ハタ、と気がつくと

ルリちゃんと
遥か先を歩いていた先輩が

こっちを振り返りながら
私に手まねきしていて。


「あ、はいッ!」

私が先輩の傍まで
駆け寄っていくと

「トーコちゃん」

先輩がその手を
こっちに差し出してきた!


「迷子になると困るから」


…先輩と手と繋ぐなんて
初めてだ。

その手に
応えようとする自分に
すんごい胸が高鳴っていてッ。

いつまでも
差し出された手を
取れずにいる私の手を

「!!」

クボ先輩が
しっかりとその手で握った。


うわあああああ。

私達ッ

とうとう
手を繋いでしまいましたッ!

だけどッ!

「ヤだ!
3人で手を繋ぐのなんて
カッコ悪いッ!!」