先輩のサイフ。

黒の革製で
意外とゴッツくて。

「オトコのヒトのサイフ
なんだなあ」

ちいさな発見に感激するッ。

「このサイフの
ユリのマークのブランドって

男子に人気あるんだよね」

セイも確か
指輪とかペンダントとか
いろいろ持っていて。


「クボ先輩って
ファッションは万人受けする
フツーな感じなのに」

持ちモノは
奇人のセイと同じだなんて。

すっごく不思議な気がした。


「ええっと。
ぶ〜さんのかき氷は…と」


私がポケットから
エリアマップを取り出して
売店を探していたら

「ぶ〜さんのかき氷なら
この先のEASTエリアだよ」

ふいに声を掛けられ

「!?」

顔を上げると

目の前には
白衣を着た男性の後ろ姿。

若い男性スタッフの
腰に手を回しながら

医務室へと続くスロープを
歩いていく。

…医務室の先生かな。

「ありがとうございますッ」

そのがっしりとした
広い背中に声を掛けると

白衣の先生が
ちょっとだけ振り向いて
私にちいさく笑顔を向けた。


日焼けした肌に
派手なシルバーの
ブレスをしていて。

夢の世界には
不似合すぎる妙な迫力。

…パパと同い年くらいかな。

親切なヒトだけど
とてもお医者様には
見えないな。


医務室に消えていく
先生の後ろ姿を
見送っていたら

「そんな風に気を抜いて
サイフを抱えてて
ひったくりに
あっても知らないぞ」

「!!!」

私の手から
あっという間に
クボ先輩のサイフが
奪われるッ!!!


「すっげ〜金持ちじゃん!」
万札が
たんまり入ってる、って

その声はッ!!!!

「セイッ!!
どうしてこんなトコロにッ!?」


「ねえ、このサイフどうしたの?」

「先に質問したのは
私なんですけれどッ」


私はセイの手から
クボ先輩のサイフを
奪い返したッ!


「…何だよ。いい態度だな。

ヒトが心配して
駆けつけてやったのに」

何が駆けつけてやった、よッ!

「今朝、出かける間際になって
呼び出された、とか
言ってたの

全部、ウソだったのッ?」