「オトコのくせにッ!」

「オトコだって
認めてくれるの?」

セイの目が妖しく光って。

「…妙なマネしたら
大声あげるからッ!」

「どうぞ」

大声あげたって

飛んでくるのは
せいぜい
お前の彼氏くらいだ、って

セイは
余裕を見せてるけどッ。


医務室の先生達も
確かこの部屋に入っていった
ハズなのにッ。

いったいどこに
消えてしまったのかッ!

「トーコに悲鳴をあげさせて
彼氏に飛んで来させるのも
面白いかもね」


…セイの美しすぎる顔が
悪魔に見えるッ。

「ほら、叫んでごらんよ。
彼氏の驚く顔が楽しみだ」

「……」

セイのキレイな顔が
さらに近づいてきて

私の唇にキスを

した…ッッッ!!!!!


セイのやわらかい唇が

「ッふ…」

私の唇をひと撫でして

「…どうしたの?
声あげないの?」

笑ってる。


「…ふふんッ。
いちいち
弟に触れられたくらいで
騒いだりしないからッ」


私は必死で
冷静なフリをしたけれど。

私の唇に残る
セイの唇の感触。

この間のキスとは
また全然違っていて。


「この前は、包丁
突きつけてきたけれど?」

「あれは…!」

必死で言い訳を考える
私のアタマを

「トーコちゃん
どうかしたの?」

クボ先輩の声が停止させる。


声がする方に目をやると

クボ先輩が
給湯室を覗き込んでいて

「……」

心臓が止まるかと思った。


「ルリ、点滴終わったから」

クボ先輩が
やさしい笑顔を向けてきて。

「何?」

「あ、いえ…」


…今のクボ先輩の笑顔。

キスを
見られてなかった、ってコト
だよね?

私はそっと胸を撫で下ろす。


「トーコちゃん。
凄い勝手で悪いんだけど」

クボ先輩はそう前置きすると

「今日はこのまま
帰ろうかと思うんだけど」

申し訳なさそうに語る
クボ先輩は

すっかりルリちゃんの
おにいちゃんモードだ。