私は花火を贅沢に楽しもうと
おおきなベッドに
横になった、のに。

「あ、花火終わっちゃった…」

せっかく
花火を見ながら食べようと
ルームサービスを
頼んだのに。

「もうそんな時間…?」

こんな大音量の花火にも
気づかなかったなんて。

「私ってホント
ずいぶん熟睡してたんだ」

チャララン、ランラ〜♪

ホテルの部屋の
メルヘンティックな
呼び鈴が鳴る。

電話して
数分しか経ってないのに。

「もうルームサービス
来ちゃったのかな」

えらく早いけど。


ホテルなのに

冷凍食品使ってるとか?
作り置きしてたとか?

…どっちにしても
何だかガッカリだ。

パレードが終わって
宿泊客がみんなして
ホテルに戻ってくるから

忙しい時間帯なのかも
しれないけど。

こんなコトなら
頼むんじゃなかったな。

チャララン、ランラ〜♪

「はい、は〜い!」

せっかちなホテルマンに
私はおおきな声で返事をして
ドアスコープを覗くと

「え」

ドアの向こう
ホテルマンではなく
ぶ〜さんのキグルミが
立っていてッ。


「まさか…セイ???」

ウソッ。

あのヒントだけで
本当に部屋を
特定出来ちゃったの?

暗証番号が
逆さになっています、だよ!?


「しかも暗証番号って…」

田舎のおばあちゃんの
フィットネスジムの
ロッカーの暗証番号だしッ。

「絶対わかるワケないと
思ったのに…!!」


ドンドンドン!

ぶ〜さんがドアを
激しく叩いてくるッ。


「…あんまり長く放置して
セイを怒らせると

後が怖いからなッ」


ドアガードを掛けたまま
そっとドアを開けてみた。

「セイ?」

気まずく笑い掛けてみると

ぶ〜さんが
ステップを踏み踏み
挨拶をするッ。


…なんか、ダサいぞッ。


ぶ〜さんの体型は
あの美しいセイを
ここまで貶めるモノ
だったのかッ。

見なきゃよかった。
見たくなかった。

このままドアを閉めて
他人のフリを決め込もうか…。


でも、そんなコトしたら
家に帰ってから何されるか
わかんないよね…。

「……」