大胆な『彼』
時間が経つ毎に
私のイライラと後悔は
どんどん膨らんでいく
ばかりだった。
私のカラダは
『彼』の指の動きを
鮮明に記憶していて
私のアタマを支配していく。
『彼』のコトなんて
好きじゃないと思ってた。
『彼』のコトだって
何も知らない。
『彼』の存在を
初めて意識したのは
『彼』が
おおきな絵画展で
最年少受賞したと
学校中で騒ぎになったとき。
テレビカメラが
教室に入ってきて
ライトの中
場違いに
うつむいたままの『彼』。
そのギャップに
笑いを我慢できなくなって
NGを出してしまったのが
私、だ。
教室のみんなも
緊張が解けたのか
つられ笑い。
「あ、いいね〜。そう!」
「クラスメイトのみんなも
その笑顔で」
「撮影協力よろしくね〜」
テレビの取材クルーの
おにいさんのフォローに
救われたハズ
だった。
なのに。
『彼』は私の前に
仁王立ちしたかと思ったら
私の隣りにあった机を
思いっきり蹴飛ばして
そのまま『彼』は
教室から
出て行ってしまった。
教室が静まり返る。
「感じ悪〜い!」
おおきな声で
『彼』の行動を非難したのは
ユッキだった。
「日頃、存在感ゼロのくせに。
こ〜ゆ〜ときだけ威圧感!?」
ユッキの口撃が止まらない。
「ホンット
あの前髪うっと〜しいッ!
絵の具つけて
筆にしてんじゃないの?」
教室の空気が
ますます固まった。
「だったら、もっと毛先
整えなきゃね〜♪」
おどけてみせたのは
ジュンジュンだ。