低く響く『彼』の声。
口の中がクッキーで
いっぱいで
悲鳴もあげられなくて
「むぐ、ぐ、ぐ」
私はひたすら
ジタバタしてしまう。
『彼』はそんな私に
おかまいなしに
私の手を引っ張って
足早にティーラウンジを出た。
手慣れた様子で
『彼』はカードキーで
エレベーターに乗り込んで
「カバ、カバン!!
席に置いてきたままッ!!」
やっとクッキーを飲み込んで
パニックする私に
「後で部屋に届けさせるから」
淡々と答えた。
冷たい無表情な横顔。
長い前髪で口元しか
わからないけど。
「……」
その空気に
私まで
何だか冷静になってしまう。
「…こんな分不相応なホテル
とてもじゃないけど
お金払えないよ」
「俺、ここに住んでるから
払う必要なんてないし」
え?
このホテルに
「住んでる!!!!!!?」
エレベーターが止まって
驚愕する私の手を
『彼』は
また引っ張って
迷わず
一番奥の部屋に入っていく。