ホテルのロビーも
ティーラウンジも
凄かったけど


その部屋には

グランドピアノまであって

ゴージャスさに
目が眩みそうになる。


「こ、こんな部屋に
住んでるの?」


「別に、この部屋とは
限ってない」


「好きな部屋
選び放題とか?」


私の問い掛けにも

『彼』は気まぐれに
答えたり
黙ったりして

何だか自分のペースを
取り戻せない自分がいた。


「スゴイよね。

お父さん
お金持ちなんだね」

「……」

家族のコトや
生活費をどんな手段で
手に入れてるのかなんて

『彼』にとっては
苦痛以外のナニモノでもない
話題なのだと

このときの私はまだ
気づかずにいて。


知らないというのは
怖いモノで

残忍な行為を平気で犯して
相手を傷つけ続けてしまう。


「家のヒトとか
帰ってきたりしたら
どうするの?」


空気を読めずに

私は『彼』を
質問攻めにする。


そんな私を
『彼』は黙ったまま

さらに奥の部屋に
連れ込んでいった。