昨日
あんなコトがあったのに

『彼』は何もなかったように

教室では
私を無視し続けていて。


今までだって

ほとんど口もきいたコトもない
相手だったから

私はなるべく意識して
視界に『彼』を
入れないようにしていた。



「今日のヒメは
何か目が泳いでるよね」


親友のジュンジュンに
指摘され

益々オドオドしてしまう。


「恋でもしたのかな〜♪」

同じく
ユッキにもからかわれ


「昨日の小テスト!

結果が恐くって
おびえてるのッ!」


必死で取り繕った。


私のふたりの親友には

ココロを通わせてもいない
よく知りもしない相手と
肉体カンケイを持つなんて

おそらく理解不能だろう。


ううん。

この私だって

自分で自分が
信じられなかった。


当然、『彼』と
そんなカンケイを持ったなんて

ふたりの親友には
とてもじゃないけど
言えないし

絶対に知られたくない
コトだった。


『彼』も私を無視して
いるコトだし

このまま
何もなかったコトとして

流してしまおうって
思ったのに。


体育の授業が終わって

体操着を着替える為に
移動する途中

私は親友達といっしょに

コトもあろうか

廊下で『彼』と
出くわしてしまった。


うわ。

前髪で『彼』の表情は
見えなかったけれど

気まずさから

私は思わず
『彼』から
視線を逸らしてしまっている。


前から歩いてくる『彼』は

道を譲るそぶりもなく

私と親友のユッキの間に
割り入るようにして

廊下を真っ直ぐに
歩いていった。


「何、あれ〜」

ユッキが不機嫌になる。