この交際には
進展もなく
後退もなく
「一瞬だけカラダを
重ねるだけのカンケイ」
それ以上
何を望むでもなく
ただ
傍にいて
『彼』の行為を
受け入れるだけで
ひとときの快感に
酔いしれながらも
「はあ…」
気がつくと私は
ちいさく溜息をついていた。
終わった後も
余韻を楽しむでもなく
さっさと自分だけ
先に着替えて
『彼』は窓から
外をずっと見ている。
「何が見えるの?」
「たまゆらな俺の人生」
人生なんて
所詮一瞬。
そう笑い飛ばした。
「たまゆら」
「玉が触れ合うように
かすかに」
「しばしの間」
ヒトとの触れあいの人生を
そんな風に表現した『彼』。
私はそんな『彼』を
理解できずに
ただただ
カラダだけのカンケイを
続けていく。
毎日、当たり前のように通う
高級ホテル。
「このホテルのオーナーが
『彼』の絵のパトロンだから」
宿泊客のウワサを
耳にした。
ホテルのロビーなんかに
『彼』の絵が
飾ってあるけれど
私は
『彼』が絵を描いているトコロを
見たコトがない。
テレビで紹介されていた絵も
ホテルにある絵も
難しすぎて
その良さが
私にはよくわからない。
凡人の理解を超えた絵は
さぞ奇妙な環境で
描き出されているんだろうと
勝手に思い描いていた。