今日も

いつものように
『彼』と待ち合わせて

いつものように
『彼』は遅れて現れた。


だけど

この日の『彼』は
いつもとは違っていて。


私には手も触れず

ベッドの上に
靴を履いたまま
仰むけになって

ただ天井を
見つめ続けていた。


「……」

どうしたんだろ。

カラダの調子でも悪いのかな。


『彼』はいつも
前髪でその端正な顔立ちを
隠していたのだけれど

この日の『彼』は
めずらしく
髪をかき上げていて。

長いまつげが影をつくって

…色っぽい。



『彼』の容姿に
思わず見入ってしまう。


胸の上に乗せている
両の手の指先には

画家としての証が
残っていて。


絵を描いてきた直後なのか。


『彼』はずっと身動きもしない。


私は初めて
『彼』との時間に
気まずさを覚えた。


「…何か飲む?」

冷蔵庫を開けてみる。


たくさんの飲み物。

その種類の多さに
部屋のグレードの高さを
実感した。


そう言えば

『彼』が自分から
食べたり飲んだりしているのを
あまり見た記憶がない。


好みなんて知らない、けど。


「ミネラルウォーターで
いいのかな?」

とはいえ
それらしい瓶が3種類もある。


「ねぇ!」

3種の瓶を持って
私は『彼』に近づいていった。


「ねぇってば…」


私は持っていた瓶を
『彼』の顔に
押し当てようとして

瓶からこぼれ落ちて
『彼』の首筋を伝う水滴に

息を飲んだ。