あの日

忘れ物を探しに
ひとりで放課後の
音楽室に行かなければ

あんなコトには
ならなかった。


今、思い出しても

あのときの
理不尽さといったら
例えようもない。


誰もいないハズの
音楽室。


ピアノの傍に『彼』がいて

私の音楽ノートを
パラパラとめくっていた。


「それ、私の…」

声をかけたけど
返事がなくて。


『彼』とは
テレビ取材の一件以来
気まずかったから

私はちょっと
警戒しながら近づいたんだ。


「返して…」

手を伸ばした瞬間

ノートを後ろに
投げられて

拾いに行こうとする
私の手を

『彼』は掴んで

抱き寄せて


私の唇を

強引に奪った。


そして

そのまま私を
オルガン机の上に
組み敷くようにして

「…謝って欲しいとは
思わないけど」

私の髪を撫でる。


「テレビ取材で
私が笑ってしまったコト…!?」


まだ根に持って
それでこんなコトして?


「小4の夏、8月10日」


『彼』には
私の問い掛けなど

耳に入ってはいないのか。


「…初めて逢った日。

俺のコト
覚えてなかったなんてさ」