未知のお金持ちの世界に
私のアタマの中は
軽いパニックだ。
「女性のお客さまに
好評なのは
ハーブティーですが
いかがでしょう」
顔面蒼白の私に
ハーブのリストを
見せながら
ホテルマンが
話し掛けてきた。
「特にローズ系のブレンドは
人気があります。
セサミ味のクッキーと
いっしょにどうですか?」
「セサミ味の…」
クッキー!!!!!
私の大好物に
「それ、ください!!」
思わず大声で頼んで
しまっていて。
何かこのホテルに入ってから
ずっと悪目立ちばっかり
しているような気がして
ハーブティーを飲んでも
落ち着かない。
「『彼』、何してるんだろう」
約束の時間は
とっくに過ぎていた。
午後の授業をサボって
「私より先に
学校を出たハズなのに」
そう思ったらどんどん
心細くなってきた。
…もしかして
からかわれたのだろうか。
『彼』は自分から
誘ったモノの
まさか
私が来るワケがないとか
思っていて
「来ないつもりなんじゃ…」
私は時計を見る。
「…やっぱり帰ろう」
大好きなセサミ味の
クッキーを口に詰め込んで
席を立とうとした瞬間。
後ろから
誰かに抱きしめられた。
「ホントに来たんだ」