開かれた記憶
「……」
その場の空気が
止まったかと思った。
我が目を疑わずには
いられない。
私の意志とはカンケイなく
胸が高鳴っていく。
『彼』は
そんな私に
気づかないふりをして
さっきの外国人と
話し込んでいて。
懐かしい声。
英語しゃべってるの
初めて聞いた。
そう言えば
帰国子女だったっけ。
制服姿じゃない
『彼』を見るのは
初めてだ。
『彼』は立ち尽くす私に
気づかないふりをして
ミスター・スミスと
話し込んでいる。
懐かしい声。
英語しゃべってるの
初めて聞いた。
そう言えば
帰国子女だったっけ。
制服姿じゃない
『彼』を見るのは
初めてだ。
パーカーを
深くかぶって。
スポーツテイスト
なんだけど
仕立てのよさが
ブランドモノっぽい。
オフホワイトなんて
着るんだ。
イメージじゃない。
ポッケに両手を
突っ込んだまま
面倒くさそうに
話してるトコロは
相変わらずで。
まるでそこだけ
時間が止まったようだった。
なじってやりたいのか
抱きしめたいのか
自分が何をしたいのか
わからない。
ただ『彼』を
見つめるのが精一杯の
私だった。
「ヒメ?」
ジュンニイが
後ろを振りむこうとした。
私はジュンニイの
腕を取って
「すっかり遅く
なっちゃったね!」
取り繕って
その場から
逃げた。