彼氏を迎えての
両親との初めての食卓
だというのに

『彼』への
複雑な気持ちを抱えたまま

私はどこか
うわの空だった。


「ホント覚えてないの?」

ママからふいに
話をふられて我に返る。


「あのときはホント
生きた心地がしなかったわ」

なんて
ママが何を
力説しているのかと
思ったら。


食卓の話題は

私が小学生のときに
行方不明になった話に
なっていた。


「ジュンイチくんがこの子を
見つけてくれなかったら」


そうなのだ。

私はその昔
ジュンニイに
助けられたコトがあった。


夜になっても
帰って来ない私を

家族といっしょに
遅くまで捜索してくれて


廃墟の中
穴にハマって
出られなくなっていた私を
救い出してくれた。


「ジュンイチくんは
本当に
昔から頼りになったものね」


どうやらママは
ジュンニイのコトを

パパに売り込もうと
しているらしい。


だけど

「…あの廃墟
まだ
残ってるらしいじゃないか。

役所ってのは…」


なんて

パパはそんなママの
ミエミエの意図に
警戒しまくっていた。


気まずい空気。

ジュンニイはパパのコップに
ビールをつごうとする。


「いいから
君も飲みたまえ」


反対にパパに
ビールを勧め返され

ジュンニイの顔が
どんどん赤くなっていく。


…ジュンニイが
お酒を飲んでるトコロ
初めて見た。


いつも車だったから
飲まないのかと思ってたら

飲めない、んだね。


真っ赤な顔で
パパのお酌に応えてる。