「あんまり
時間がないんです」

車に戻ると
『彼』のお母さんが
不安を訴えてきた。


年末年始は稼ぎ時
なのだという。

仕事をしないと
ダンナの機嫌を損なうと
心配している。


「お仕事って?」

「お嬢さんが
知らないような世界の
仕事ですから」


派手な身なりなのに
常識的な受け答えに
違和感を覚える。


「…戻ったら
また殴られませんか?」


『彼』のお母さんは、
少し戸惑った顔をした。


「ふだんは
優しいヒトなんですよ」

気が弱いから

尊大な態度をとって
みたりするけれど

「後でちゃんと
反省できるヒトなんです」


一度キレた後は

いつも1週間くらい

滅茶苦茶
やさしくしてくれる
という。


「ありがちだな。

そしてまた暴力を繰り返す」


ジュンニイが吐き捨てた。


「それでも…」

自分がいないと
オトコが生きていけないと

虚勢を張ってはいるが
本当は弱いヒトなのだと

母親は言い訳する。


「……」

ジュンニイは
言いかえすのもバカらしいと
言わんばかりに

黙って
運転を続けていた。