母親はまた泣き出して

「無理です、無理です」

自分がいないと
あのオトコは
生きていけないからと

繰り返す。


でも、ひとりでは
生きていけないのは

どう見ても
お母さんの方だ。


「オトコにすがる生き方を
やめない限り

『彼』はアナタを
許しはしないと思います」


ジュンニイの
厳しいコトバが続いて

お母さんの
すすり泣く声だけが

ただ部屋に響いてる。


息苦しい沈黙。


そしてその静寂を
玄関のチャイムが破って

私はジュンニイと
顔を見合わせた。


「このマンションを
知っているのは…」

「ウチのヒトかも」


お母さんのセリフに
ジュンニイと固まってしまう。

まさか。


「私、GPSケータイ
持たされてますから」


「……」

ジュンニイが
玄関カメラのスイッチを
入れた。


「ちわ〜。弁天屋で〜す」
「あ、年越し蕎麦」

はい?

ジュンニイが慌てて
対応する。


「スミマセン。
無理言っちゃって」

出前のヒトに
アタマをさげてる。


「ここ来る前に
注文してたんだった」


ジ、ジュンニイ〜〜〜。

心臓が止まるかと
思ったよおお。


「そうだよな。
部屋番号まで
つきとめられるワケ
ないよな」

ジュンニイが
自嘲気味に笑った。


「ウチのヒトは
私の居所がわからないと

マンション中の
チャイム鳴らしまくってでも
探し出しますけど」

母親はそう言って
照れ笑いする。


「……」

全然
笑えないんですけど…。