今更、何を言っても
信用されはしない。


そう言いたかったのかも
しれない。


けど。

「絶筆になるかもしれない
大切な絵を『彼』から
貰ったんでしょう?」


「…あの子は
お金で解決したいと
思ったんですよ」


手切れ金。

「それくらい私のコトが
憎くて疎ましかったんです」



「……」

本当に『彼』は
そんな風に
思っていたのだろうか。


あの絵には
裏にちゃんとフルネームで
署名してあって

『彼』の作品だと
疑う余地がなかった。


適当な絵に
適当なサインを入れて

その場を回避するコトだって
できたハズなのに。


でも

この母親には言えなかった。

教えてはいけないような
気がした。


このヒトが
『彼』に期待をし始めたら

『彼』が傷つく。


何故だかそう感じた。

「今年中に戻ってくるから」

ジュンニイが
私のアタマをポンポンと
軽く叩いた。


「…早く帰ってきてね」


ドアを閉めるフリをして

ジュンニイが私の唇に
こっそりキスをする。


「ちょっと
新婚家庭みたいだぞ」

ジュンニイに笑顔が戻った。


誰かに
すがりたい気持ちなら
誰にだってある。

お母さんだって
生きる為に
必死だったんだろう。


女手ひとつで
子どもを育てていくのが
どれだけ大変か。

ツッパって生きるのが
どれだけ…。


わかってはいるけれど。

それでもやっぱり

子どもを手放した罪は
おおきい、と思う。