新聞の記事に
何回も、何回も目を通す。
でも
新聞の内容が
アタマに全く入ってこない。
入るのをココロが拒絶する。
「あれから
いろいろ『彼』のコト
調べさせて貰ったらさあ」
支配人の口から
出てくる事実に
足が震えた。
1年程前から
『彼』は色の識別が
できなくなっていて
今年の秋頃には
光さえ感じなくなるときが
あったのだという。
「9月頃
画壇の情報誌で
『彼』のスタッフを
募集していてさ」
絵画から表現の手段を
彫刻に切り替える為の
自分の目となるスタッフを
集めていたという。
「おそらく
日付からいっても
これは『彼』の最後の
絵画作品だろう」
その絵の日付を注視して
私は愕然とする。
その日付こそ
まさに
あの別れ話をした
その日、だった。
その色にも見覚えがある。
それは
まさにあの日
『彼』のカラダ中に
飛び散っていた
あの赤色だった。
「春頃なんて
やたらとメディアに
露出していただろう?」
あれは『彼』の
後ろ盾になってる画商が
今が最後の売り時とばかりに
メディア戦略を
しかけていたのだと言う。
「…最年少で賞を貰ったから
話題にされてたのかと
思ってた」
「それ最年少で
ドートンヌのメンバーとして
迎えられたっていう話題の
間違いだと思うよ」
支配人がすかさず
私の独り言を訂正した。
そのなんとかっていう
権威と歴史あるサロンの
メンバー入りは
歴史上の画家になると
約束されているようなモノで
とてつもないコトなのだと。