寒さに耐えながら
家から持ってきた
コーヒーを
ふたりで回し飲みして
昔話に花を咲かせた。
『彼』の母親を
待っているのに
母親の話も
『彼』の話も
話題にあがらない。
まだどこか
腫れモノに触るのを
さけている
ふたりだった。
《今夜はとんかつが食べたい》
ジュンニイのメールが
入ってきた。
「あ、ソース
切れてるんだった」
「何か主婦っぽいぞ〜♪」
ジュンジュンが
からかってくる。
「『彼』のお母さん
今日はもう来そうにないし。
帰ってアニキに
とんかつ作ってやんなよ」
「ジュンジュン、あれ!」
「あ…」
ジュンジュンが
見かけたという時間帯に
母親が本当に現れた。
「行くよ!」
「…うん」
本当は現れないでと思ってた。
残念だったねと終われたら
どんなによかっただろう。
相変わらず
金髪の根元の黒さが
だらしなく目立っていて
真冬だというのに
素足に
ピンヒールのサンダルで
何度も転びかけている。
「……」
声をかけるのを
戸惑わせる。
でも、その顔は
何とも言えず嬉しそうで。
『彼』の絵を見るのが
楽しみだとでも
いうのだろうか。
あの絵は
このヒトにとって
息子の前で
恥をかかされた記憶を
思い起こさせるモノでは
ないのか。
『彼』は
行方不明事件のとき
卑猥な絵を
描いていたけれど
母親が息子の前で
オトコと
そういう行為をするのが
当たり前になっていた
とでもいうのだろうか。
私にはどうしても
その心理が
理解できずにいた。