本当に
こんな母親を逢わせても
『彼』は
傷つかないのだろうか。
それでも
「ヒメ…!」
ジュンジュンに促されて
思い切って声をかける。
「あの…おッ!」
「声が裏返ってるよ!」
ジュンジュンの目が恐い…。
「覚えてます? 私…」
「…ええ、あのときは」
『彼』の母親は
声なんかをかけられて
迷惑だと
言わんばかりの顔をした。
迷惑なのは
こっちの方なのに。
「失礼しますね」
母親は
喫茶室に入るのをやめて
人ごみの中に
消えていこうとした。
「あのッ」
ジュンジュンが慌てて
その後ろ姿に声をかける。
母親は立ち止って。
でも
振りむきもしなかった。
「お嬢さん。
このまま別れましょう」
自分にかかわると
大変だと言いたいのは
わかっている。
私自身が
一番感じているコトだ。
私だって声なんか
かけたくない。
知り合いたくも
なかったよ。
雨が
ぽつぽつ降ってくる。
お天道さまも
やめろと言ってるに
違いなかった。
「お久しぶりです。
私、ちいさい頃
よく遊びに
行ってたんですけど」
ジュンジュンが
痺れを切らして
母親に話しかける。
「ジュナです。
覚えてませんか?」