「こんな格好で恥ずかしい」
『彼』の母親は
ホテルの豪華さに
すっかり圧倒されていた。
よれよれのビニール傘を持った
見るからに安っぽいその姿は
はっきり言って
浮きまくっている。
そんなコトにおかまいなく
ジュンジュンは
どんどん先を急いでいた。
その後を私と母親が
懸命についていく。
母親はふかふかのカーペットに
何度も足を取られては
私の腕にしがみついてきて。
私は私で
コートの襟を立てて
顔を隠して
自分のコトで目一杯だった。
ジュンジュンは
慣れた様子で
セキュリティーカードを使って
特別階専用
エレベーターに乗る。
「ヒメが緊張してどうするの」
ジュンジュンのコトバが
ちょっと皮肉に聞こえた。
好きでもないオトコ。
もう終わったカンケイ。
堂々としてれば
いいんだから。
そう自分に
言い聞かせれば
言い聞かせる程
意識してしまっていた。
エレベーターが
特別階で止まる。
私達と入れ替わりで
オトコが乗り込もうと
待っていた。
一瞬、『彼』かと思って
心臓が止まる。
「あ、ジュナ」
そのオトコは
なれなれしく
ジュンジュンを
呼び捨てにした。
「友達なの? へえ」
スタッフらしいそのオトコは
例のごとく
私を舐めまわすように
見ている。
私はコートの前を
思わず閉じた。
想像してるんだ。
あの彫刻と比べてるんだ。
耳まで真っ赤になる。
あの作品、本当に
発表されちゃうんだろうか。
そんなコトになったら
もう外を歩けなくなる…。