独特の粘土のにおい。

においのせいか
部屋全体が油っこく感じる。


目の前には
まっ白な彫刻が
いくつも立っていて

綺麗な色とりどりの
手形のようなモノで
飾られている。


作品の足元を見て

これは確かに自分だと
すぐにわかった。


爪の形も
怪我の痕も

まさに見慣れたソレで。


こんなに見事に
覚えているモノなのか。

そして
再現できるモノなのか。


顔を上げて
他の部分を直視なんて

とてもじゃないけど
できなかった。


母親に腕をギュッと握られ

我に返る。


ジュンジュンが
こっちを見ていた。


私はポーカーフェイスで
母親を気遣うフリをして

大丈夫ですよと
その手に触れる。


「……」

母親の手は
『彼』の手の温度に似ていて

ドキッとした。


その手は
小刻みに震えている。


早くも『彼』の姿を
見つけたようだった。


見たいような
見たくないような

『彼』の現在の姿。


ジュンジュンが
私の肩を叩いて

「ここで見てて」
と小声で耳打ちして


部屋の真ん中に
ひとりで進んでいった。


ドアのすぐ傍で
母親とふたり取り残される。


英語の怒号に驚いて
声のする方を見ると


そこには

懐かしい『彼』の姿があった。