『彼』は
スタッフが差し出す色を
いちいち舐めてみては

早口の英語で
巻くし立てている。


ふたりいる
スタッフらしきヒトは
いずれも欧米人らしかった。


口の周りが絵の具だらけだ。

スタッフから
受け取った液体で
口をゆすいでは
高級カーペットを汚していた。


『彼』の足元に
散らばった絵の具を
ジュンジュンが拾い集め出すと

「ジュナ!」

スタッフみんなの顔が
安堵に変わる。


遅くなって申し訳ないと
ジュンジュンは英語で
謝っていた。


ジュンジュンの英語は

ジャパニーズ
イングリッシュで

私にもわかる。


ここでは
英語が標準らしい。


みんながジュンジュンを
ジュナと
呼び捨てにするワケだ。


ジュンジュンに促されて
外国人スタッフが
引き上げていく。

スタッフは私が
その彫刻のモデルだとは
気づかなかったようで。


ジュンジュンの言う通り
意識過剰だったのかも…。

何か肩の荷がおりて
ちょっと緊張が解けてきた。


ジュンジュンは
『彼』の横で
絵具を調合を始めていて。


「どんぐり」
「ヒノキの新芽」

『彼』の口にする
キーワードから

的確に色を選び出して

『彼』の制作活動が
リズムよく進んでいく。

さっきまでの
『彼』の怒声が
ウソのように静まった。


『彼』の有能なアシスタント。


ジュンジュンがどんなに
『彼』を愛しているのか

『彼』の為にどれ程
努力を惜しまなかったか


思い知らされる。