そうだ。

見覚えがある。


カビ臭いニオイをかいで

記憶が
どんどん蘇ってくる。


「私、落ちたんじゃなくて
引きずり落とされたんだ…」


確か目の前で
そのオトコノコが穴に落ちて

助けようと
私は手を差し出したんだ。


「オンナなんかに
助けられたくない」

「じゃ、オトナのヒト
呼んでこようか?」

「余計な御世話だ」


「でも、もうすぐ
日も落ちてくるし。

パパとママが心配するよ」


「…俺のコトなんか
誰も心配するもんか」


凄く頑なな
オトコノコだった。


「じゃチョークだけ返して」

「こんなモノが
そんなに大事か」

オトコノコは
チョークをさらに
穴の奥に投げ捨てた。


「ヒドイ!!」

泣きながら
チョークをとろうと

一生懸命
私は手を伸ばして。


そしたら
そのコが私の手を
そのまま引っ張って

バランスを崩したふたりは

さらに下の方まで
落ちてしまったんだ。


ヒザとかいっぱい
すりむいて痛かった。


けど

それより
粉々になってしまった
チョークに

私は声も出なかった。


遠くで
ジュンジュンの声が
したけれど

涙がイッキに噴き出して

返事をする
余裕なんてなくて。


「おい、泣くなよ。
悪かったよ」


もう止まらない。


「おまえ、うるさい!

お願いだから
超音波攻撃はやめてくれ!!」


そのコは怒鳴りまくって


「泣きやめって!」

私の肩を引きよせて


私にキスした…。


「そのシーンは
私も覚えてるよ」


ジュンジュンが続ける。