「あまりのショックに
私、思わずその場を
立ち去っちゃったもん」
「オンナなんてみんな同じ。
どんなに大騒ぎして
泣き叫んでも
結局、オトコにキスされたら
黙っちまうんだ」
私も自分の母親も同じだと
そのオトコノコは笑ってて。
ぺっぺって唾を吐いて
私にむかって
「汚ね〜」って。
「…『彼』らしいね」
え…?
「そのオトコノコが
『彼』なのよ」
そして、ここが
「行方不明になっていた
ふたりの発見場所なの」
あのオトコノコが
『彼』…?
顔を
はっきり思い出せない。
ただ、絵が凄く
上手なコだったのは
覚えている。
あのときも
また泣き出した私の足元に
粉々になったチョークで
絵を描き出したんだ。
蛙にトカゲに
ゴキブリまで。
しかも
超リアルな絵だった。
「気持ち悪い…」
「何だよ。
絵画教室の先生は
すごく褒めてくれるぞ」
「虫とか嫌いだもん」
「何なら好きなワケ?」
「わんちゃん」
「犬?」
「くるくるの毛のヤツ」
特徴を身振り手振りで
伝えると
オトコノコは
その通りに描いていく。
リクエスト。
またリクエスト。
「凄いね」
「凄いね」
「生きてるみたい」
「ね、ね、私も描いて」
思わず
そうお願いしていた。