「……」

オトコノコは
少しだけ黙って

今度は壁に描き出した。


「あ…」

「何?」
「何でもない」


これはジュンジュンには
話せない。


その絵はまさに

音楽室で『彼』が
私のノートに落書きしていた

あの卑猥な女体の絵だった。


それは

『彼』が私に発信していた
過去の記憶を問う暗号で。

なのに。

私は…。


自分の愚鈍さを
思い知らされる。

「どうしてそんな
意地悪描くの?」

「オンナは嫌いだから」


「嫌いだったら
描かなきゃいいじゃない。

パパが言ってたよ。

絵は
ココロを表現するモノだって。

パパは絵が下手だから
かわいそうだけど


アナタは
こんなに上手に描けるのに

どうしてそんな絵しか
描かないの?」


「…お説教始めたんだ?
ヒメらしいね」

ジュンジュンが苦笑した。


「好きなモノ描いたら
凄くしあわせな気分になるよ」


パパの絵。
ママの絵。


「…へったくそ」

「いいんだもん。

ここには大好きだって
描いてるだけだもん」


「…ふん」

そのオトコノコは
また私の隣りで
絵を描き始めた。


「チョーク短いから
描きやすいだろ?

俺様に感謝しろ」


軽口をたたきながら

『彼』は私の描いた
ママの絵の周りを

たくさんのオトコの絵で
埋めていく。


でも
幼い私はその意味に
気づきもしなかった。