服を整えている私の背中は
ジュンニイの視線を
痛い程感じていた。
だけど
今の私には
振り返る勇気はなかった。
沈黙を破るように
ケータイが鳴る。
「…はい」
私はケータイに出ながら
ジュンニイのマンションを
後にした。
「今、いい?」
電話の声の主は
ジュンジュンだった。
「あのさ…」
「今は誰とも話したくない」
「…やっぱり
テレビ見てたんだ」
その声に振りむくと
ケータイを片手に
ジュンジュンが立っていた。
「…心配だったから」
駅から走ってきたんだろう。
息を切らしている。
「ジュンジュンは
番組のコト知ってたの?」
「ううん。
ミスター達も全く知らなくて。
今、大騒ぎしてる」
テレビはホテルで
スタッフと見たと言った。
「番組が始まる寸前に
ヤツから電話がかかってきて」
ヤツとは
あの撮影クルーのコトを
指していた。
「勝手にテープを持ち出して
テレビ局に売ったって
ほざいて…!」
ジュンジュンの顔は
怒りで真っ赤だ。
「あの作品が
どれ程の駄作か
世の中に
審判して貰うんだと!」
何、それ…。
「明日の朝ね。
例の絵のオークションが
ニューヨークであるんだ」
それを見越しての
番組だったと言う。
番組のスポンサーが
あの絵の持ち主である画廊の
大株主のひとりで。
世界中の『彼』の
コレクター達が
あの彫刻をつまらないと
評価すれば
もうそんな作品しか
創れないのだと
判断してしまったら
「あの絵は『彼』の
事実上の絶筆として
破格の高値がつくだろうね」
ジュンジュンは
そう吐き捨てた。