「逢いたい。今すぐに」
「バカじゃないの」

「逢いたい」
「ありえない」

「逢いに来てくれたよね」
「それは…」


行きがかり上で
しかたなくで。


言い訳しようとする私を
制するように

『彼』は続けた。


「何も求めず。

執着をせず。
期待せず。

そういう生き方を
してきたから」


してきたハズだった。


失いたくないモノから
神様は剥ぎ取って
いこうとする。


「ちいさい頃から
いつもそうだった」


だから
大切なモノは
つくらない。


「執着なんかしては
いけないってわかってる」


真っ暗な部屋で

8年前に
タイムスリップしたような
懐かしい感覚に襲われる。


あの日も
雨が降っていた。

あの日と同じ
幼い『彼』が
しゃべっている。


明日のオークションで
自分の評価が
決まるからって

不安にでも
なったのだろうか。


ふと、冷静になる
自分がいた。


「オークションが
気になるの?」


でもそれは
見当違いも甚だしくて。


「世界中が
俺をどう評価しようが
知ったことじゃない」


ビッグマウス。

大口叩いて


『彼』はやっぱり
憎たらしいくらい

あの日のままの『彼』で。


「俺が失いたくないモノ…」

そう言いかけて


『彼』は黙った。


雨の音が
やさしく暗闇を包む。


「…しあわせなのか?」