要は『彼』の全ての
絵画作品の市場価値が
イッキに5倍に
跳ね上がったと言うワケだ。


それは

もうまともな作品は
生まれないだろうという

世間の冷たい評価
でもあった。

「あのさ」

私の不機嫌さに
かまわず

ジュンジュンは
さらに話しかけてくる。


「今朝、ニューヨークでの
オークションの結果が出て」


「……」

ジュンジュンの声のトーンで
いい知らせじゃないって
すぐに察しはついた。


「最高額。

『彼』の1号あたりの
絵の相場が
5倍になったんだって」


要は『彼』の全ての
絵画作品の市場価値が
イッキに5倍に
跳ね上がったと言うワケだ。


それは

もうまともな作品は
生まれないだろうという

世間の冷たい評価
でもあった。

「駄作を創らせる
ダメなオンナ、ね」


もう、失うモノなんて
何もなかった。


「あの作品は
駄作なんかじゃないよ!!」

ジュンジュンが怒鳴る。


「言ったでしょう?

あの作品はまだ
制作過程なんだって!」


「でも、世間はもう
結論を出しちゃったじゃない」


もう、どうでもよかった。

こんなコト言い返しても
お互いをさらに
傷つけるだけだって

わかってたけど。

今の私には
失うモノなんてなかったから。


ケータイの
メールの着信音が鳴る。


どうせユッキか
クラスメイトだろう。


着信を確かめもせず
電源を切った。


「…ユッキは
まだ知らないよね」


「知ってるよ。
だって、テレビのコト
ユッキから
教えて貰ったんだもん」