「ジュン。
用意はもうできたの?」
そのヒトはジュンニイに
なれなれしい口を
きいていた。
「あ、もうそんな時間?」
ジュンニイが慌て出す。
「この後、夜の便で
フランスに出張なんだ。
日本食レストランの
プロデュース」
そう私に話しかけながら
ジュンニイは
クローゼットから
大きなキャリーケースを
出してきた。
「パスポート、旅券、書類
ちゃんと揃ってる?」
「あ、そうだった」
ジュンニイが
自分の部屋に飛び込んでいく。
「ったく!」
腰に手を当てて
ふんぞり返っている
その女性は
ジュンニイと
同い年くらいだろうか。
ショートカットの黒髪に
濃紺に細いストライプの
パンツスーツが
悔しいけど
カッコよかった。
「ホント。
ひさしぶりよね」
「え…?」
そのヒトは
私をフルネームで呼んで
「夏のバイトでは
お疲れさまでした!」
そう声をかけてきた。
「覚えてない?」
そのヒトは
ジュンニイの事務所で
秘書をやっていると
自己紹介する。
そういえば
着物のバイトのとき
私達を出迎えて
くれたような…。
「私って存在感薄いから〜!」
がははと高笑いしてみせた。