「……」
信号の点滅が止まって
横断歩道の真ん中に
ふたり取り残される。
「許すも許さないも…」
どうして私がそのひと言を
口にするコトに
コダワルのか。
そんなに
『彼』が大切なんだ。
そんなに
『彼』が好きなんだ。
「…ジュンジュンは
『彼』にはチョコ
あげないの?」
アタマに浮かんだコトバを
私はそのまま声に出して
しまっていた。
ジュンジュンは少し驚いて
「私が? 『彼』に?」
問い直してきた。
何か私おかしいコト
言ったっけ?
好きなヒトに
チョコをあげるのが
バレンタインで…。
「そうだね」
私の返事を待たずに
ジュンジュンが答える。
「でも『彼』は
オヤジ達とは違って
迷惑に思うかも、ね」
「…そんなコトは
ないと思うけど」
ふと行方不明騒動のとき
『彼』が分けてくれた
ちいさなチョコを
思い出した。
「チョコ好きだと思うよ」
「たぶんね」
ジュンジュンが
ちょっと笑った。