ジュンニイは
何も聞かなかったかのように

自分の妹のリアクションを
無視して


「この後ボブと現場の下見に
行かなきゃいけないんだ」


私の目を見ながら
頬をポンポンと軽く叩いた。


「せっかく来てくれたけど」

ごめんとジュンニイは
私を抱きしめて。


軽く手を振って

ミスターとふたりで
タクシー乗り場に
消えていった。

「は…」

何かすっかり
ジュンニイのペースで。


「アニキってば
フランスで何の影響を
受けてきたんだ…」

ジュンジュンが
アタマを抱えてる。


日本を発つまでは
私に触れるのも
どこか遠慮がちで

こっちの様子を窺いながらの
抱擁だったのに。

ジュンニイはそうするコトが
まるで当たり前かのように

自信たっぷりに
余裕をみせていて。


ジュンニイの中で起こった
このおおきな変化に

私もジュンジュンも
戸惑いを隠せなかった。



「…本場仕込みの
フレンチキスは
いかがでした?」

「本場仕込みって…」

「あはは。
ジョーク、ジョーク」

「やだなあ。あははは」

「だよねぇ。ははは」


乾いたテレ笑いが
ふたりの動揺を
物語っていた。


「アニキが私の前で
誰かと堂々と
キスするなんて

初めてだよ。

今までなら
目撃されようモノなら
大慌てで
誤魔化してきたのにさ」


「…だよね」

私とキスしたいときに
傍にジュンジュンがいると

ふたりきりになるチャンスを

わざわざ
作ったりしてたのに。


「……」

ジュンニイのこの変化に

何だか
素直に喜べなかった。