「は?」
マユコさんはその意味を
理解出来ずにいる。
それは
それらの絵が
私を知っている
マユコさんでさえ
私だとは判別しにくい
表現の作品なのだと
いうコトで
私達ふたりは思いっきり
胸を撫でおろした。
「つまらない
だだのデッサン。
批評家なんぞに
見せようモノなら
鼻で笑われそうな
作品だったわ」
なのに
そんな習作もどきを
個展で発表したいと
「その『彼』が
突然ワガママを
言いだしたらしいわ」
『彼』が…?
嫌な予感が
私のカラダを支配する。
「もう全てのヒメゴトから
おまえを解放させたい」
あの雨の日の
『彼』のセリフ。
『彼』の見えない意図に
私は動揺を隠せなかった。
マユコさんは
そんな私におかまいなく
フランスでの
出来事を話し続けた。
「美術館をもう一度
下見し直して」
その絵や彫刻を
どんな風に展示すれば
まともに見えるのか。
ミスターは
毎日スタッフとアタマを
悩ましていたと言う。
権威ある美術館に飲まれて
『彼』のその純粋で
瑞々しい感性は
ただの駄作にしか見えない。
屈折していて
どこか自分を
覆い隠そうとする
今までの謎めいていた
『彼』の絵とは
あまりにもギャップも
おおきすぎる。
契約書を盾にして脅しても
絶対にアタマを
縦に振ろうともしない。
ここまで頑固なコだとは
思わなくてと
ミスター達は正直
面食らってしまったという。
どうして『彼』は
こんな絵なんかを
展示発表するコトに
固執するのか。