「もう全てのヒメゴトから
お前を解放させたい」
『彼』の声が
アタマをリピートする。
思い出したいのは
ジュンニイのやさしい声で
温かい抱擁で
けっして『彼』では
ないハズなのに。
自分の唇を自分の指で
何度も慰めてみる。
ジュンニイの唇の感触。
ガラスに映った
自分の顔の情けなさに
ずーんと落ち込んでしまう。
「ちょっと寝てもいいかな?」
私はイヤホンで
音楽を聴きながら
そっと目を閉じた。
「朝、早かったもんね」
私を乗り越えるようにして
窓際のカーテンを
ジュンジュンが閉める。
「…あのさ。私
『彼』とミスターの会話
聞いちゃったんだよね」
音楽を
本当に聴いていると
思っているからなのか。
それとも自分の話を
聞いているだろうと
確信しているのか。
私は
目を開けるべきか否かを
正直迷っていた。
そんな私に
おかまいなしで
ジュンジュンは
話を続ける。
「制作途中の彫刻に対して
世界が出した評価は
自分の実力への評価であって
モデルになった人物を
評価するものでは
あってはならないんだ」
『彼』はしきりにその点を
強調していたという。
「ヒメの為に『彼』は
自分の全てを捨てようと
しているんだよ」
またジュンジュンが
『彼』をかばっている。
そう思ったら
何だか泣けてきた。
私だけが被害者面して
『彼』を加害者のように
感じるなんて
自分でもずうずうしいって
わかってはいるけれど
私の為なんて
今の私には
凄く卑怯な言い訳にしか
聞こえなかった。